2014年4月9日水曜日

客あしらい

昼前の打合せを終えると
久方ぶりに午後、時間ができた。

最近は約束の花見には参加できず
飲み会があれば遅れ
友だちには不義理ばかりで
時に恋バナもいいけど、私たちとも遊んでねと
言われる始末だが
いやいや、浮いた話ならともかく
3月末から4月は
本当に気の休まることがなく。

クライアントの担当者が変わったというのも
心配ごとの一つであった。

学生のころ、4月は憂鬱な季節であった。

クラスガエになるたび
私は教室の隅っこで暗い顔をしていた。

何がいやだった。

友だちと違うクラスになるのが。
新しい友だちに囲まれるのが。
教室が変わるのが。
先生が替わるのが。

いや、そんなことが、いやだった。

あれはなんだったのか。

引っ越しのたび
新しい家、新しい街に慣れるまでにも
いくらか具合が悪くなったものだ。


でも今日はそのうち合わせも少しうまくゆき
だからこそ、うれしい午後の自由時間。

しかも、コートを脱ぎ捨てて申し分ない陽気ときている。

とりあえずコンタクトレンズの交換だ。

定額システムにしているから1年に1回無料で交換できる。

雑居ビルの4階にあるメガネ屋さんには
店のおやじさんしかいなかった。

遠近両用も良くなっているのでしょう、と尋ねたら
「今度新しいシリーズが出たんですよ・・・・・・」
「皆さん、新しいのにされますよね・・・・・」
と、メガネ屋のおやじさんは、引き出しをいじりながら言う。

ああ、いいですねと乗り気になったら
「あの、遠近じゃないですよ・・・」

な~んだ。

じゃ、同じ度数でそれにしてください。

今度のは、驚くなかれ、30日間連続装用も可能だそうだ。


「1か月間、寝てるときも、ずっと、つけていいということですか」
「そういうことになりますが、まぁあまりお勧めはしませんけど・・・・・・」

他にどこが変わったんですか、と尋ねると
テーブルの上にパンフレットを開き、愛想笑いを浮かべながら
カーブがなんとか・・・と言った。

まぁ、それにしましょう、いいですよ。と決め、用紙を書いていると
「あの、(毎月)300円あがるけどいいですか・・・」

え、そういうのって先に言うんじゃないの。

このメガネ屋さんに10年ほど通っているのだが
行くたびに湿気った雰囲気がかさんでいく。

おやじさんは見るたび身体から自信というものが
抜け出ていくようにも見える。

あとからペットボトルを下げた店員らしい男性が入ってきたが
私を一瞥しただけだ。

新しいレンズをつけていると
「装着液、これ、皆さん、いいっておっしゃるんですよ・・・」
と、また何かつぶやいている。

やはり、愛想笑いを浮かべている。

帰り際にも「装着液、いいんですけど、どうですか・・・」
と言うので、丁重にお断りした。800円の品であった。

売れると、インセンティブでもあるのだろう。

メガネ屋さんを出たら、ストールがないことに気づいた。

おそらくランチを食べた、地階にあるタイ料理店だろう。

すみません、緑いろのストールの忘れ物はないでしょうか。

扉を開けてそう声をかけると、先ほど接客してくれた男性が
私の顔を見ただけで、座っていた奥の席を調べてくれた。

戻ってきた手には確かに、グリーンのストールが。

「申し訳ありません。気づきませんで」

いえいえ、こちらこそ。

あぁ、この人はプロだと思った。











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