息子いわく
生まれ育った下北沢とバングラデシュ(正確にはダッカか)は似ているそうだ。
まさか、と笑い飛ばそうとしたが
写真を見せられて、確かに似ているとおもった。
今のセンター街化した南口じゃなくて
90年代までの一番街あたりかな。
間口の小さな店と看板が肩を並べ
道の両側からそれぞれに話しかけてくるような、あの感じ。
人々は、時に目をみはるようなカラフルな服で
思い思いに歩いている。
将来はバングラデシュに引っ越そうかな
とうそぶく彼にニヤリとする。
「ということは教育効果があったってことだな。
生きていくと、いろんな人がいる。
人生は混沌としているってことを教えたかったから」
サラリーマン家庭ばかりがひしめく街で
子育てはしたくなかった。
できれば、八百屋も魚屋も服屋も畳屋もある商店街で
ミュージシャン、劇団員、会社員も医者も工員の子もいるような
渦の中で育ってほしかった。
漁村では、農村では、炭鉱町ではどうなのか。
当時はそこまで思いが至らなかったが
とにかく背広を着た会社員の子どもしかいないのは
物足りないと思ったのだった。
結果として、わたしたちは銭湯の上にしばらく暮らすことになった。
息子が期待どおりたくましくなったかどうかは
わからないが、とりあえず人生いろいろは
感じているような気がする。
そんな彼に本棚から
どうぞと『下北沢ものがたり』を貸した。
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