6月某日 日曜日。
早起きして目指すは115丁目。ハーレムだ。
時差ボケもあって朝5時過ぎには目が覚めた。
カーテンを閉め切る仕様じゃないから
窓の外がうすうすと明けてくるのがわかる。
メトロの駅まで向かう朝。
通りは少し肌寒い。
「A列車で行こう」の
A trainは、こんなにちっちゃくて、おんぼろで、
なんということもない地下鉄だったのか。
それでもハーレム行きの急行電車
ある人たちにとって、夢を乗せて走る電車には変わらない。
この建物の色が気持ちを落ち着かせるのかも |
115丁目の階段をあがると
白人の団体さんに出くわした。
おそらくは、皆、教会に行くにちがいない。
私は教会を探してちょっと道に迷って周囲を歩いてしまったのだが
少なくとも、そのあたりには
吉田ルイ子さんの『ハーレムの熱い日々』で馴染んだ落ち着いたアパートメントが連なっていた。
ミッドタウンの家賃がどんどん値上がりしているため、今このあたりに引っ越してくる人が多いそうだ。
「もう私がいたころのハーレムではないの」
ビリー・ホリディも通ったレノックス・ラウンジは1939年開店。 窓の外からのぞいたらお店の人と目が合って決まり悪かった やっぱり夜でなきゃ雰囲気がでませんね |
最近は会う人、会う人
「もうハーレムは昔のハーレムじゃないよ」
「面白くなくなっちゃったよ」
などと、ありがたいような、ありがたくないようなアドヴァイスをくれるようになった。
確かに今、ハーレムの中心、125丁目に行けば、スタバもあればH&Mもある。
その代わり、ハーレムの黒人たちの生活を彩り、支えてきた個人商店が
数十軒、姿を消していったのだ。
でも、再開発というのは書き割りみたいなものだ。
名目で脚光を浴びるのは、表側だけ。
地図でみれば、親指と人差し指でつまみあげられそうな、ほんのひと握りの地域だけ。
これは、東京でもどこでもおんなじだ。
暑くなる前の日曜の朝ということもあったのかもしれないが
ところどころシャッターの下りた通りのけだるさは、
暮らす人たちの心持ちに近いような気がする。
◆Men's Day イマジネーションで補う カルテット5つ分
教会の前で記念写真 |
公開ワークショップまでまだ1時間もあるのに
すでに30人ほど外国人の列ができていた。
最後尾のスタイルのいいおねえさんに、
ここに並べばよいのかしら?と尋ねたら
イタリア人で、英語はよくわからない・・・と言われた・・・
その前にいる、ミドルエイジのグループはどうもフランス人らしい。
皆ガイドブックを見ているから
世界のあちこちで“ゴスペルの聞ける黒人教会”として
紹介されているんだろうなぁ。
どんだけブラック・ゴスペルって世界に広まっているんだ。
ハーレムには400あまりの教会があると何かで読んだ。
その中でこのCanaan Baptist Churchを選んだのは
キング牧師が訪問して演説したことがあると聞いたから。
1932年に映画館だった建物を信者たちが買い取り
現在の姿にまで高めたのだ。
11時まで退屈だなぁ、と最初は時計ばかり気にしていたのだが
次々に集まる、おめかしした、おじさま、おばさま(おばあさま)方や
バギーに乗せられた子どもたちの髪の編み込みを眺めているだけで
「かっこよい~」「おしゃれ~」
と、子どもみたいな感想と共にためいき。
原色のスーツやドレスが、また茶色い街並みに映えるのだ。
そうこうしているうちに、列はどんどん伸びて100人くらいになったのではなかろうか。
席に着くと一人一人に配られた冊子 |
写真がNGなのは仕方ないとして
好きな場所に座れないのは、いかにもシステマチックで、ちょいと窮屈だ。
もう少しバンドや、教会全体の様子が観たかった。
worshipの進行、歌、教会の歴史などが書かれている |
写真NGだったので The Mighty Men Of Canaanの勇姿を チラシでお伝えします |
白ヴァージョンも |
この日は父の日ということもあって、Men's day。
コーラス隊も男声のみだった。
だいたい5人ずつ座って、歌うのだけれど
声が太いので、想像以上に迫力がある。
派手さはないが、見かけは
ファイヴ・ブラインド・ボーイズのアラバマとミシシッピと
ディキシー・ハミングバーズとマイティ・クラウズ・オブ・ジョイと
フェアフィールド・フォー
といったカルテットが、ひと所に集まった感じである。
想像するだけで、ふふふふと、うれしくなってしまう。
パスタ-が、Fatherと呼びかけると、
ぞろぞろと会場の男性が立ち上がる。
拍手。
続いて、Grandfather、Grandgrandfatherの順に
讃えるたび、もちろん人数は減るけれど、逆に拍手は大きくなり
感嘆にも近いため息がもれる。
「Man Of The Year」の表彰や、娘から父へのカードの贈呈などもあった。
くるくる回ったり、倒れたりするような強烈なシーンはないけれど
力強いサーモンを耳にしながら
生活の心の拠り所としての教会として
ひとつひとつに興味津々。
それなのに、ツアー客なのか中座してしまう人たちが
結構いたのは興ざめだった。
途中、献金のお盆がまわってきたのだけれど
コインの人もいて意外にみんな渋い。
うーん、いろんな立場もあるかもしれないから
しょうがないのかな。
コンサートだと考えても、5ドルくらい払ってもいいような気がするのだが。
◆初めて観た!プレイズ・ダンス。
途中、白い衣装の男性が3人現れ
音楽と共に、唐突に踊り始めたのには面食らった。
神への賛美なのはわかるのだが、
アクションがものすごく大きい。
EXILEみたいに3人重なって踊ったときは
ちょっとあわてた。
http://youtu.be/IBLMlJJC1oQ
こういった踊りは
プレイズ・ダンスとか、ゴスペル・マイムと呼ばれる類の表現で
ブラック・チャーチ発祥だ。
この日のworshipにもずっと手話の人がついていたが
耳の不自由な人にもわかる表現をという部分もあるのだろう。
ストップ・モーションになった時の立ち姿は
ゴスペル・カルテットや
コーラス・グループのアルバムのジャケットを想像させる。
ソウル・グループのダンスの振り付けに多い
理屈を超越した、独特な身のこなしは
やはり教会が土台になっているのかも。
たとえばこのテンプス!
http://youtu.be/4P1x7Yy9CXI
この粘っこさ!
大地をしっかと踏みしめながらも自在なステップ。
天に向かって愛を放つような仕草。
ブラック・カルチャーの美学あり、と思わずにいられない。
→ハーレム編 その2に続く