2014年8月11日月曜日

電車のセミ

電車の座席にぼんやり座っていたら
じりじりジリバリバリバタバタと突然の音。
セミだ、セミ。
セミが乗り込んできて
困惑のあまり
あちこちにぶつかりながら飛び回っている。

あからさまに顔をしかめる人。
見上げる人。
口元に笑いを浮かべる人。

と、セミも覚悟をきめたか
ドアの前に鎮座した。

うむ、これは捕まえにいくべきか。
いけるか。
もし逃がしたらどうするか。

迷っていると
目の前に座っていた肩幅の広い男性がすっと立ち上がる。

そして、素早くつかむと
次の駅でドアがあくなり、ホームに放り出した。

肩幅の広い男性のTシャツには
All JAPAN JYUJYUTSU なんちゃらと
書いてあるように見える。

呪術ではないぞ、柔術だ。

男性が席に戻ると隣に座っていた
メガネをかけた細いお兄さんが
笑みを浮かべ
ありがとうございますと、頭を下げている。

終点の駅に着いたので
さっそく束の間のヒーロー
JYUJYUTUの男性の後に続いて電車を降りる。

肩幅の広さとがっしりとした背中。
荷物はサンドバックみたいな楕円形の袋一つだ。

なにごともなかったように、というか
この方にとっては、なにごとでもないのだろうな。

なにごともなく、なにかをする、というのは
頭と体がぴたりと合っていないと、ままならない。

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