朝から取材。インタビュー3名。
ハラジュクから山手線に乗り込むと
中央のつり革あたり、ぽっかり席が空いているのが見える。
スマホをいじるおねえさんの肩越しに、ちょっとのぞきこむと
若い男性が、右90度に身体を折り曲げ
座席にアタマを埋めて寝ていた。
醜態を敬遠してか、彼の左側にも誰も座らない。
都合、3席分、彼の物となっている。
醜態と書いたが、本人はとても気持ちよさそうである。
どっと乗客が入れ替わった駅があり、
男性の前に仕方なく立っていたおねえさんたちも皆降りたので
私は、彼の左隣に座ることとする。
座ってみると、くだんの男性は酒臭かった。
男性は片方の手を膝の上に置いたリュックに突っ込んでいる。
始発では見ない光景でもないが
ひょっとしたら山手線を何周りかしたのだろうか。
うむ。酒臭い。
こちらに寄りかかられるよりは良いが
確かに心地よいものではない。
壊れているとわかって橋を渡るクセ。
危ないかもと知っていながら近寄ってしまうクセ。
五反田に着くと
ホームにいた駅員さんが直角寝の彼に気づき
「車内点検」
とアナウンスして、飛び乗ってきた。
「起きて!起きて!」
とむりやり上体を起こす。
唇に半笑いを浮かべ、薄めを開ける男性。
よく見ると、なかなか爽やかそうなお兄さんである。
「寝ちゃダメだよ」
駅員は両肩を揺すった。
酒臭さが私の方に近づいた。
「車内点検終了~」
車内点検って、忘れ物の捜索とかじゃなくて
こういうとき使うのね。
男性は半目のまま、現と夢を彷徨っているようだった。
うむむ、酒臭い。
しかし、少しばかり現に引っ張られたか
次の駅で、ふらふらと立ち上がると
ふらふらと降りていった。
酒臭さが遠ざかっていく。
そして何も知らない女性が、彼のいた席に座った。
山手線。ぐるぐる、回ってるだけなんだなぁ、と思う。
しかし。
彼が去ったことで、私は自分の問題を思い出した。
どうも足もとに違和感があるなと思ったら
右の靴底がぺらりと剥がれかかっているのであった。
靴を脱いであがる取材もあり。
それでは失礼しますと会釈して
靴底のみを置いていくような醜態はさらしてはならない。
どこぞで接着剤でも買ってと思ったが
結局、広報の担当者と昼ごはんもあわててとったほどで
コンビニに寄る間もなかった。
なんとかごまかし、ごまかし、一日を過ごす。
壊れかかった靴を履くのはやめよう。
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