家にこもっても良いとなった日には
ひょっとして本当に一歩も外へ出ないこともある。
夕方ごろ、ようやくドアをあけてポストまで。
集合ポストのところには女性の先客がいた。
こんにちは、と会釈する。
と珍しく相手も返してきた。
「●号室の●●です。」
やさしい笑顔だ。え、あの怒鳴りちらしてるであろう当人か。
「息子たち、うるさくないですか」
意表をつかれた。
「いや、うるさくないですよ、お子さんたちは。」
一瞬、顔色がくもったように見えた。
いや、そう見えただけかもしれない。
なんとなく気まずくて
ポストから手紙を取るとそのまま踵を返してしまった。
しかし気のせいではなかったのかもしれない。
その日から朝晩のどなり声はある日の夕方をのぞき
ぴたりと聞こえなくなった。
むしろ心配になるくらいだ。
おそらく本人も気づいているのだろう。
やめたいと思っていると信じたい。
改めて考えれば、原因は母親にあるのではなく
子どもたちに何か手に負えない
問題があるのかもしれない。
もしそうであれば、母親が内にこもり
暴発してしまうことはないだろうか。
そして、私ももう少し皮肉ぽい言い方ができなかったものだろうか。
とは言え、何と言えばよかったのか
どんな態度をとるべきだったのか
いまだ正解と思える答はみつからない。
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