2014年6月3日火曜日

花瓶のバラ

午前中から外だったので
昼は渋谷市場でお弁当を買う。

駅前、東急プラザの地階は
肉も魚も野菜もパンも、箸も茶わんも
お茶もお菓子も、近所のおつかい感覚で買える渋谷のオアシスである。

なんなら近所で買うより安い。

弁当380円~500円。
種類も多いし
それなりの副菜もついている。

選んだ弁当にその場でジャーから
温かいごはんをよそってくれる上に
缶のお茶が一本つく。
これも緑茶、烏龍茶、サイダー、水などから選べる。

今日はじめて
お店の名前が、尚太郎ということを知った。

ジャーからごはんをよそってくれる
おじさんの名前なのだろうか。

でも名前はどちらでもいい。

昔、タウン誌でまちあるきの連載をしているころ
散歩の途中で見かけた食べ物屋さんを
紹介するのが苦痛なときがあった。

いや、見つけるのはうれしいし
食べるのはいいのだ。

それをありきたりな写真に落とし込み
住所や電話番号を載せなければいけないとなると
腰がひけた。

私はいつも通りすがりの人でいたかった。

川本三郎さんの一部の本や
武田百合子さんの本を読んでいると
店名は書かれていないが
引き寄せられる文章がある。

鮮やかに情景が浮かび上がってきて
確かにそこに店があり、匂いがあり
人のざわめきがある。

またいっとき、散歩の途中で見かけた
花の名前を書きたくて
植物の名前を覚えるのに凝った。

母と妹への引け目もあったかもしれない。
2人とも華道の師範を持っているが
私だけ無縁だ。

無粋な自分への挑戦でもあり
図鑑を見ながら
すっとこどっこいなガーデニングもやってみた。

おかげで今でもいくらか花の名前は言えるようになった。

だが、視覚と固有名詞が結びついき
それを言葉に落とし込んだ途端
文章が精彩を失っていく瞬間を感じることがあった。

そういえば、どこかの学校だったか
物事の本質を教えてくれるようなエピソードを思い出す。

確か、教材は、花瓶に挿したバラか何かの花だった。

親に対し、子どもにそれを伝えてくださいと促すと
「これはバラですよ」
と教える人が大半。
誰もまず、「きれいね」とは言わなかったという。

名前はただの記号だ。

見たまま、感じたままに受け止め
表現し、伝える。
それについて、もっと苦悶しなくちゃいけない。









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